おはようございます。先週は直したはずだったをテーマに5本を読みました。最終日の金曜は、スウェーデンの大手通信機器メーカーが、米国司法省との合意を結ぶ2週間前に新しい社内調査を電話で大まかに伝え、報告書が確定した後も更新を送らなかった事案でした。

今週のテーマは警告は出ていたです。測定器の画面、発注画面の警告、与信超過の通知、警報メール、取引先からの照会。仕組みや社外が出した警告のあとで、誰がそれをどう扱ったかを、国内3本、海外2本で読みます。初回は、検査担当者の目の前にあった画面です。

導入

2025年2月17日、精密ボールやボールねじを製造する国内の上場メーカーが、特別調査委員会の調査報告書(開示版)を公表した。ボールねじは、機械の直線運動を担う部品である。東北の工場で作るボールねじの検査で、測定値の改ざんが長年続いていた。

報告書によれば、きっかけは事業の売却に向けた調査だった。2024年9月下旬頃、工場の品質保証グループの管理職が、部下から改ざんを告げられた。10月2日に工場長と所管の執行役へ、翌3日に代表執行役へ報告が上がり、会社は10月16日に外部の弁護士による特別調査委員会を設けた。この会社は2018年にも別の工場の品質不正で調査委員会を設けている。その調査は今回の工場も対象に含めていたが、この改ざんは見つかっていなかった。

改ざんされたのは、ボールねじの32種類ある品質検査項目のうち、ねじの送りの精度(リード精度)の測定である。報告書は、検査の場面をこう書く。リード精度の測定器はパソコンに接続されており、検査担当者はパソコンの画面上で測定結果を認識する仕組みになっている。

報告書に、画面が「規格外」と知らせる表示があったという記述は無い。それでも、規格を外れた測定値は、まず検査担当者の目の前にある画面に出ていた。本便では、この測定値そのものが、最初の警告だったと読む。

その画面に、別の仕組みが組み込まれていた。1990 年頃、品質保証グループの担当者が自動的に測定結果を JIS の規格内の数値に修正するプログラムを作成し、これをパソコン内に組み込み、それ以降は当該プログラムを利用して改ざんが行われるようになった。 作成した担当者は、当時は注文が非常に多く、手作業での修正が繁雑だったと委員会に述べている。

委員会はプログラムを解析した。測定の後、画面には「データを保存しますか? 0:はい 1:いいえ」と表示される。報告書は続ける。上記測定結果が規格を逸脱している場合、上記の表示がされた際に担当者がパソコンのキーボード上の S キーを押すと、以下に説明するとおり、上記プログラムの機能によって測定結果が規格内の数値に収まるように修正される

Sキーを1回押すと、ばらつきの大きい順に自動で修正が繰り返される。その回数は測定器ごとに9回、18回、27回に設定されていた。修正が終わると、画面に再びデータを保存するかの選択肢が出て、保存を選ぶと規格内に収まった数値が保存された。報告書はこう書く。S キーを押してこれらの数値が修正されると、修正後のものが上書き保存される仕組みになっている。そのため、修正前の Y、Z、Z300 の数値は保存されていなかった。 担当者が紙に印刷して残していた生データから会社が再計算したところ、高い精度の等級(C0〜C4)の研削ボールねじでは、3つの指標のうち1つ(Z300)の測定結果の42.7%に改ざんがあった。再算出したZ300の実測値には、公差の2倍を超えるものが1割程度あった。

警告は、検査の外にも届いていた。公差からの外れが大きいときは、品質保証グループが製造部門に研削のやり直しを頼んでいた。報告書によれば、製造部門の管理職がやり直しは難しいので合格扱いにしてほしいと求め、品質保証のマネージャーがそれを受け入れることがあった。その場合、当時の品質保証部長が担当者にやり直しは不要と指示し、担当者は数値を書き換えて合格扱いにした。報告書は、製造の現場の声をこう記す。検査係から測定値が JIS 規格の公差を超えた旨の指摘を受けることはあっても、研削のやり直しを求められることなく、ねじ軸が次の工程に進んでいったことから、本件不正を認識したと述べる者がいた。

ここが今日の分岐点である。品質保証グループの検査担当者の一人は、委員会にこう述べている。2000 年代に入り、当時の品質保証部長から、『コンプライアンス上問題がある』として、改ざん用のプログラムを削除するように指示されたが、改ざん用のプログラムを削除して改ざんをやめると仕事が回らなくなると考え、その指示に従わなかった。

委員会は、業務に支障が出ると考えるなら品質保証部長やその他の上長に伝えて相談すべきだった、と評価した。担当者は「上長に相談しても無駄だと思った。」と説明している。プログラムは、2024年の発覚まで使われた。

削除を指示した部長と、やり直し不要を指示した部長が同じ人物かどうかは、報告書からは分からない。製造の現場には、研削をやり直しても公差に収めるのは難しいとして、製造と品質保証の管理職らが協議し、やり直しをしない運用が定着していった、と述べる人もいた。会社は2024年11月の時点で、製品の品質や性能への影響や事故の報告は確認されていないと説明している。

Q1

報告書によれば、規格を外れた測定結果が出たとき、検査担当者がSキーを押すと何が起きたか。

  1. 測定がやり直され、新しい結果が表示された

  2. プログラムが結果を規格内の数値に修正した。その後、保存を選ぶと修正後の数値が上書きで保存された

  3. 規格外の結果が品質保証部長にメールで送られた

  4. 修正前と修正後の数値が両方とも保存された

正解: 2

解説: 画面の表示は「0:はい 1:いいえ」だったが、規格外のときに押されたのはSキーだった。プログラムが数値を規格内に収め、その後に保存を選ぶと、修正後の数値が上書きで保存された。修正前の数値は残らなかった。本便では、規格を外れた測定値が出る画面と同じ画面に、その数値を消す操作が用意されていたと読んだ。

誤答の罠: 4を選びたくなる。書き換えるなら元の値も残すはず、と考えやすい。この仕組みで元の測定値が手元に残っていたのは、担当者が生データを紙に印刷していたからである。

Q2

報告書によれば、2000年代に品質保証部長からプログラムの削除を指示された検査担当者は、どうしたと述べているか。

  1. すぐに削除し、手作業での書き換えに戻した

  2. 削除できない理由を部長に説明し、了承を得た

  3. 仕事が回らなくなると考えて従わず、上長に相談しても無駄だと思った

  4. 内部通報の窓口に相談した

正解: 3

解説: 担当者は、プログラムを消して改ざんをやめると仕事が回らなくなると考え、指示に従わなかった。上長への相談も「無駄」だと思ったと説明している。報告書には、削除の指示に代わる規格外の数値の扱いについての記載は無い。本便では、削除の指示は届いていたが、規格外の数値が出たときの扱いが決まらないまま、指示だけが残ったと読んだ。

誤答の罠: 2を選びたくなる。現場が上に事情を説明するのが普通に見える。報告書が記しているのは、その説明がなかったことと、委員会が「相談すべきだった」と評価したことである。

Q3(判断分岐)

以下は、この事例を参考にした仮想の場面である。あなたは品質保証部長。検査用のパソコンに、規格外の数値を規格内に書き換えるプログラムが入っていると知った。担当者は「これを消したら仕事が回らない」と言う。本便が勧めるのはどれか。

  1. コンプライアンス上問題があるので削除するよう指示し、あとは担当者に任せる

  2. 削除を指示したうえで、規格外の件数を毎週自分に報告させる。研削のやり直し、顧客との仕様の協議、設備の更新の予算要求までを、自分の仕事として引き取る

  3. 当面は残し、設備を更新してから削除する

  4. 顧客から苦情が出ていないので、様子を見る

正解: 2

解説: 書き換えをやめれば、規格外の数値はそのまま画面に残る。その数値をやり直しに回すのか、顧客と協議するのか、設備を替えるのかを決めるのは、検査担当者の権限の外にある。報告書は、担当者が上長に相談すべきだったと評価する一方で、管理職層が現場の問題を能動的に把握し、それをエスカレーションするようになるためには、それを受け止める経営陣の存在が不可欠である。 と書く。規格外の件数を自分に上げさせ、その行き先を自分で決める、という手順は、報告書の評価をもとにした本便の提案である。

誤答の罠: 1は正しい指示に見える。報告書に書かれている2000年代の指示も、削除せよという部分までである。指示のあとに出てくる規格外の数値をどこへ持っていくかが決まっていなければ、担当者の手元には「仕事が回らない」という問題だけが残る、というのが本便の見解である。

監修者から一言

今週の初回にこの事例を選んだのは、規格を外れた測定値が出る場所と、その数値を消す操作が、同じ画面にあったからです。私は、その測定値そのものが警告だったと読んでいます。検査係も、製造に公差の外れを伝えていました。それでも、保存されたのは書き換えた後の数字でした。

私が一番重く読んだのは、2000年代の削除の指示です。「コンプライアンス上問題がある」という判断は正しく、指示も出ていました。それでも、規格外の数値が出たときにどうするかを決める人がいなければ、現場はプログラムを手放せません。私は、不正をやめさせる指示を出すときには、やめた後に出てくる問題を誰が引き取るかを、同じ場で決めるべきだと考えています。

もう1つ、この工場では、製造と品質保証の管理職らの協議でやり直しをしない運用が定着していった、と述べる人がいました。私には、警告を出す側と受け取る側が、同じ協議の場で「合格」を決めていたように見えます。今回、改ざんを確かめられたのは、担当者が生データを紙に印刷して残していたからです。私は、協議で決めた合格こそ、元の測定値とともに残しておくべきだと考えています。

実務接続

今日、自社の検査や承認のシステム(品質、経費、与信のどれでもよい)を1つ選び、画面が「不合格」「規格外」「上限超過」を出したとき、その後に押せるボタンや操作が何かを担当者に見せてもらう。そのうえで、警告を覆した操作が、元の値とともに記録に残り、警告を出した部署の外の誰かが件数を見ているかを確かめる。

出典(段落単位)

  • 株式会社ツバキ・ナカシマ「(開示事項の経過)当社のリニア事業における一部製品の品質検査に関する不適切行為に関する調査報告書受領について」(2025年2月17日)、および同PDFに収められた同社特別調査委員会「調査報告書(開示版)」(2025年2月14日付)。TDnet掲載のPDF(85頁)を取得し、原文で確認した。 https://www2.jpx.co.jp/disc/64640/140120250217577791.pdf

  • 同社「当社のリニア事業における一部製品の品質検査に関する不適切行為について」(2024年11月11日)。製品の品質・性能への影響と事故の報告についての会社の説明。 https://www2.jpx.co.jp/disc/64640/140120241108516045.pdf

  • 調査報告書 1頁: 事業の売却に向けた調査の過程での発覚、特別調査委員会の設置(2024年10月16日)、2018年に別工場で起きた事案の調査で本件が判明しなかったこと。

  • 調査報告書 20〜21頁: 2024年9月下旬頃の部下の申告と、10月2日・3日の報告の経過。32種類の品質検査項目とリード精度測定、測定器とパソコンの仕組み、1990年頃のプログラムの作成と作成の理由、2000年代の削除の指示についての検査担当者の供述。

  • 調査報告書 22〜24頁: 「データを保存しますか?」の画面とSキーによる修正、自動修正の回数(9回・18回・27回)、修正後の数値の上書き保存、生データの印刷による保存。担当者の「上長に相談しても無駄だと思った。」との説明と、委員会の評価。

  • 調査報告書 25〜26頁: 紙の生データからの再算出(等級C0〜C4の研削ボールねじでZ300の42.7%に改ざん、公差の2倍超が1割程度)、研削のやり直しの依頼と合格扱いの要望、当時の品質保証部長の指示、ネジ研削係経験者の供述、関与者の範囲。注29(品質保証グループのマネージャーは2021年7月より前は工場の品質保証部長)。

  • 調査報告書 75頁: 再発防止策の提言「管理職層の強化」。

  • ※太字は引用と強調の両方に用いている。引用は原文どおりで、全角・半角と空白の表記も原文に従った。

このシリーズ「朝3分の分岐点」は平日毎朝、実際の事件から「判断の型」をひとつお届けします。

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