おはようございます。

昨日は、会社が出した再発防止策の範囲の話でした。

今日は、その外側 ── 国が打った再発防止のほうを見ます。

導入

自動車の型式指定をめぐる不正について、国土交通省は2024年12月24日、検討会のとりまとめを公表した。

この文書には、過去の不正事案と、そのたびに行われた制度見直しが、順番に書かれている。

2016年4月、三菱自動車工業で、燃費値をよく見せるために走行抵抗値を法令の「惰行法」と異なる方法で算出し、操作していたことが判明する。国土交通省が他社に照会したところ、同年5月、スズキでも法令と異なる方法での測定が判明した。

→ 走行抵抗データを研究所が妥当性確認する審査の厳格化。生産ラインからの実車抜き取り。同年9月の規則改正で虚偽記載の禁止と罰則の明確化、型式指定の効力停止。翌2017年5月には道路運送車両法を改正し、不正手段で受けた型式指定の取消を可能にした。

2017年9月、日産自動車で、完成検査員以外の者が完成検査の一部を実施していたことが判明。同年10月にSUBARU、2018年8月にスズキでも同様の不正が確認された。

→ 立入検査の当日だけ無資格者をラインから外す運用があったため、監査を無通告に。2018年10月の規則改正で無資格者の完成検査に罰則。2019年5月の法改正で是正命令制度を新設。

2022年8月、日野自動車で燃費・排出ガス試験の不正。現行エンジン14機種すべてで確認された。

→ 長距離耐久試験のデータ提出と確認。監査の強化。

そして2023年3月に豊田自動織機、同年5月にダイハツ工業。国土交通省が85社に調査を指示した結果、2024年5月末、トヨタ自動車・マツダ・ヤマハ・ホンダ・スズキでも不正が報告された。

厳しくした。厳しくした。厳しくした。
それでも、4度目の検討会が開かれている。

Q1

このとりまとめが「制度見直しのきっかけとなった不正事案」として挙げているものに、含まれないのはどれか。

1. 燃費・排出ガス試験における走行抵抗値の不正な算出と操作

2. 完成検査員以外の者による完成検査の実施

3. 排出ガスの長距離耐久試験におけるデータの書き換えとねつ造

4. リコール届出の遅延

正解: 4

解説: 挙げられているのは2016年(走行抵抗値)、2017年(完成検査)、2022年(長距離耐久試験)の3件である。いずれも型式指定という入口の審査に、事実でないデータを出したという形をしている。

判断の型: 制度が変わる引き金になるのは、結果の重大さより「制度の前提が崩れた」ことである。

誤答の罠: 4は自動車の不祥事として想起しやすいが、この文書の主題は型式指定の申請である。制度ごとに、何が引き金になるかは違う。

Q2

2016年の不正を受けて導入された措置に、含まれないものはどれか。

1. 提出された走行抵抗データについて、研究所が妥当性を確認する審査の厳格化

2. 申請書等への虚偽記載の禁止規定と、違反者への罰則適用の明確化

3. 型式指定の効力を停止された者に、再発防止措置を講じたことを証する書面の提出を求めること

4. 全メーカーに対する第三者委員会の毎年の設置義務づけ

正解: 4

解説: 1〜3はいずれも実際に導入された。3は特に踏み込んでいて、効力停止を受けた者は、次に申請するとき「再発防止の措置を適切に講じている」ことを書面で証明しなければならない。再発防止策が、行政手続きの要件そのものになった例である。

判断の型: 再発防止は、宣言でなく、次の手続きの入場条件にすると効き方が変わる。

誤答の罠: 4のような「全社に一律の機関を置かせる」措置は、強く見えるわりに、置いただけで終わりやすい。実際に採られたのは、データの妥当性を外から確認する、抜き取る、無通告で行く、といった検証側の手当てだった。

Q3(判断分岐)

自社で、同じ類型の違反が3度目に起きた。過去2回はいずれも、手順書の改訂とチェック工程の追加で対応している。次の対策を設計するとき、あなたが最初にやるべきことはどれか。

1. 罰則規定を追加し、処分を重くする

2. チェック工程をもう1つ増やす

3. 過去2回の対策が、現場のどこで機能しなくなったのかを先に確かめる

4. 監査の頻度を上げる

正解: 3

解説: 1・2・4は、3度目の対策としては説明しやすい。ただし、1度目と2度目も同じ方向だった。

判断の型: 4度目の対策を設計する前に、1〜3度目がどこで止まったかを見る。このとりまとめも、今回の原因として、担当者の意識だけでなく、担当者の法令遵守意識の欠如、部下からの報告、相談、意見具申を抑圧するような企業風土、そして認証業務にしわ寄せが生じる組織・業務体制を挙げている。ダイハツ工業の例では、過度に厳しい硬直的なスケジュールで自動車全体の開発が行われており、問題が発生しても対応を行う余裕がなく、当初の日程を柔軟に先送りできなかったことが原因として挙がっている。

誤答の罠: 3を選んでも、対策は足すことになる。変わるのは足す場所。手順の側に加えて、手順を守れなくしている条件の側にも取る。国土交通省の対策も筆頭は「内部統制の強化・徹底」で、統制を薄くする方向には向かっていない。論点は、強くする先をどこに置くか。

監修者から一言

この8年で、審査は厳しくなり、抜き取り検査が入り、監査は無通告になり、罰則は強化され、是正命令の制度までできました。順当な打ち手ばかりだと思います。

それでも、2024年にまた検討会が開かれました。

気になるのは、原因の欄に毎回「日程のしわ寄せ」と「言い出せない」が並ぶことです。手続きを足す対策は、その2つには直接届きません。届かないものを足し続けると、現場は守るべきものが増えたぶんだけ余裕を失います。

どこに足すかを、一度ずらして考える時期に来ているのだと思います。

実務接続

今日、自社で過去に同じ類型の問題が起きていないかを、5年さかのぼって1つ確認する。2回以上あったなら、そのときの対策が「手順を足す」型だったかどうかを見る。同じ型が続いているなら、次は別の型を混ぜる根拠になる。

出典(段落単位)

·       国土交通省「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会 とりまとめ」(令和6年12月24日)第1章 はじめに ── 令和5年3月に豊田自動織機から産業機械用エンジンの排出ガス試験の不正、同年5月にダイハツ工業からポール側面衝突試験の不正の報告があったこと。ダイハツ工業に令和6年1月、豊田自動織機に同年2月、道路運送車両法に基づく是正命令が発出されたこと。型式指定を取得している自動車メーカー及び装置メーカー等85社への調査・報告の指示の結果、令和6年5月末にトヨタ自動車、マツダ、ヤマハ、ホンダ及びスズキでも不正行為が行われていた旨の報告がなされ、トヨタ自動車には同年7月末に是正命令が発出されたこと。 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001853861.pdf

·       同とりまとめ 第2章2(1)過去の不正事案の概要 ── ①平成28年4月 三菱自動車工業(走行抵抗値を法令で定めた「惰行法」と異なる不正な方法で算出・操作)、同年5月 スズキ ②平成29年9月 日産自動車(完成検査員以外の者が完成検査の一部を実施)、同年10月 SUBARU、平成30年8月 スズキ ③令和4年8月 日野自動車(燃費試験での燃料流量校正値の変更、排出ガス長距離耐久試験でのデータ書き換え・ねつ造。全ての現行エンジン14機種で確認)。

·       同とりまとめ 第2章2(2)制度見直しの概要 ── ①交通安全環境研究所による走行抵抗データの妥当性確認、生産ラインからの実車抜き取りによる確認検査、平成28年9月の自動車型式指定規則等改正(虚偽記載の禁止・罰則適用の明確化・型式指定の効力停止)、平成29年3月の規則改正(効力停止された者に対する再発防止措置を証する書面の提出)、平成29年5月の道路運送車両法改正(不正の手段による型式指定の取消・虚偽報告への罰則強化) ②監査の無通告実施、平成30年10月の規則改正(完成検査に関する規定の明確化・無資格者への罰則・勧告制度の創設)、令和元年5月の道路運送車両法改正(是正命令制度の創設) ③長距離耐久試験データの提出・確認、監査の強化。

·       同とりまとめ 第2章3(2)今般の不正事案における原因 ── 豊田自動織機及びダイハツ工業に共通する背景として、担当者の法令遵守意識の欠如、部下からの報告、相談、意見具申を抑圧するような企業風土、認証業務に不当なしわ寄せが生じうる組織・業務体制。ダイハツ工業の原因の例として、過度に厳しい硬直的なスケジュールで自動車全体の開発が行われており、問題が発生しても対応を行う余裕がなく、当初のスケジュールを柔軟に先送りすることができなかったこと。

·       同とりまとめ 第3章2 具体的な対策の内容 ── 【対策1】内部統制の強化・徹底 【対策2】国による監視の強化 【対策3】規制の実効性向上。

·       国土交通省「三菱自動車工業等の燃費試験における不正行為について」── 平成28年4月20日の三菱自動車工業からの報告内容、同年5月18日のスズキからの報告、タスクフォース中間とりまとめ(平成28年6月10日)・最終とりまとめ(平成28年9月16日)。 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk8_000008.html

今日の一問(返信で教えてください)

あなたの会社で過去に打った再発防止策は、どの型が多いですか?

·       A 手順・規程を足す型

·       B チェック・承認を足す型

·       C 現場が守れる条件(人員・日程)を変える型

このメールに返信して、A〜Cの一文字だけ送っていただければ十分です。

このシリーズ「朝3分の分岐点」は平日毎朝、実際の事件から「判断の型」をひとつお届けします。

PS(いつでも・何度でも): 最近、「このルール何のためだっけ」と思った瞬間はありましたか。

一行で返信いただければ、必ず私が読んで、私が返します。

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水戸貴之/note『コンプライアンスの地図』

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