おはようございます。昨日は、相手を選ぶところの話でした。
今日は、選んだ後の話です。

導入

米国司法省の評価文書に、短い問いがある。

会社は、第三者の帳簿や会計を調べる監査権を持っているか。そして、過去にその権利を行使したことがあるか。

前半だけなら、多くの会社が「はい」と答えられる。契約書のひな型に入っているからである。

後半で止まる。

同じ節に、もう一つ並んでいる。

会社は、関係が続いているあいだ全体にわたって第三者のリスク管理を行っているか。それとも、主として取引開始時の審査で行っているか。

取引開始時にいちばん厚く、その後は薄い。多くの会社の実態がそのまま問いになっている。

本文のほうには、継続的な監視の手段が並ぶ。

更新されたデューデリジェンス、研修、監査、第三者による年次のコンプライアンス証明。どれも、契約を結んだ後に発生する作業である。

Q1

評価文書が、第三者との関係について挙げている「継続的な監視」の手段に含まれないものはどれか。

1. 更新されたデューデリジェンス

2. 第三者による年次のコンプライアンス証明

3. 研修

4. 取引開始時の反社会的勢力チェック

正解: 4

解説: 1・2・3はいずれも挙げられている。4は必要な手続だが、取引開始時のものであって継続的な監視ではない。

判断の型: 入口の審査と、続いているあいだの監視は、別の作業である。片方をもう片方の代わりにはできない。

誤答の罠: 3が誰への研修かは、この一文では特定されていない。ただし同じ節には別の問いがあって、そこでは第三者との関係を担当する自社の社員に、コンプライアンス上のリスクとその扱い方をどう研修しているかが問われている。相手を管理する側の力量も、見られている。

Q2

同じ評価文書が、第三者について問うている項目はどれか。

1. 第三者の従業員数と資本金

2. 第三者に対する報酬・インセンティブの構造を、コンプライアンス上のリスクに照らして検討・分析したか

3. 第三者の親会社の格付け

4. 第三者との取引が全社売上に占める比率

正解: 2

解説: 報酬とインセンティブの構造を、リスクに照らして分析したか、が問われている。

判断の型: 成果に強く連動した報酬は、成果を作るための行為も引き寄せる。成功報酬の比率が高い代理店ほど、手段の選び方に圧力がかかる。

誤答の罠: 1・3・4は与信や重要度の話で、いずれも管理指標としては使われる。ただしこの文脈で見られているのは、相手が何をすると得をするかの設計である。

Q3(判断分岐)

海外代理店との契約更新が近い。過去5年、監査権を行使したことは一度もない。あなたが提案することはどれか。

1. 監査権の条項を、より強い文言に書き換える

2. 更新の条件として、今期中に1社でも実地の確認を行う計画を立てる

3. 監査の代わりに、代理店から年次の誓約書を取る

4. 監査対象の候補を全代理店から選び、来期の予算を要求する

正解: 2

解説: 1は文言が強くなるだけで、行使の実績は増えない。3は手段としては有効だが、書面だけで置き換えると「一度も見ていない」状態は変わらない。4は正しい方向だが、予算がつくまで何も起きない。

判断の型: 使っていない権利は、まず1件使う。範囲を広げるのはその後でよい。

誤答の罠: 4を選びたくなるのは、網羅的に始めたいからである。ただし全代理店を対象にした計画は、たいてい合意形成の途中で止まる。1件やった実績は、次の年の交渉材料になる。

監修者から一言

契約書のひな型に監査権を入れる作業は、法務部門で完結します。だから入ります。

行使するとなると、誰が行くのか、何を見るのか、相手が拒んだらどうするのか、という話になります。ここは法務だけでは決まりません。決まらないので、条項だけが残ります。

一度でも行使したことのある会社は、次から相手の対応が変わります。使わない権利を持っていることと、使ったことがあることは、相手から見ると別のものです。

評価文書には、審査で見つけた危険信号を追跡し、それがどう処理されたかを記録しているか、という問いもあります。見つけた後を書いていない記録は、見つけていない記録と、外からは同じに見えます。

実務接続

今日、主要な取引先との契約書を1本開いて、監査権の条項があるかを確認する。あれば、過去にその権利を行使したことがあるかを調達か事業部門に聞いてみる。一度も無ければ、そこが来期の1件目になる。

出典(段落単位)

·       米国司法省 刑事局「Evaluation of Corporate Compliance Programs」(2024年9月改訂)II.E Third Party Management ── 第三者の帳簿・会計を分析する監査権を有しているか、および過去にその権利を行使したことがあるかという問い、関係の存続期間全体にわたってリスク管理を行っているかそれとも主として取引開始時の審査で行っているかという問い、第三者に対する報酬・インセンティブ構造をコンプライアンス上のリスクに照らして検討・分析したかという問い、第三者との関係を担当する自社の社員にコンプライアンス上のリスクとその管理方法をどう研修しているかという問い、審査で識別された危険信号とその処理を追跡しているかという問い、および継続的な監視の手段として更新されたデューデリジェンス・研修・監査・第三者による年次のコンプライアンス証明が挙げられていること。 https://www.justice.gov/criminal/criminal-fraud/page/file/937501/dl?inline=

·       ※本文中の日本語は、いずれも原文(英語)の拙訳である。

今日の一問(返信で教えてください)

あなたの会社は、取引先に対する監査権を、過去に一度でも行使したことがありますか?

·       A 行使したことがある

·       B 条項はあるが、行使したことはない

·       C 条項があるかどうか分からない

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水戸貴之/note『コンプライアンスの地図』

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