おはようございます。昨日は、国内の上場会社の広告子会社で、会計監査人が申込書に掲載期間を書くよう求め続け、取引先への照会で指摘を収めた一方、その照会の回答に会社から回答例が届いていた事案でした。

今日の「直したはず」は、過去の刑事事件のあとに約束したコンプライアンスです。

導入

2022年12月2日、スイスに本社がある重電・自動化の大手は、米国司法省(DOJ)と起訴猶予合意(DPA)を結んだ。南アフリカの国営電力会社の高官のために賄賂を払ったとして、海外腐敗行為防止法(FCPA)違反の罪を問われたものである。刑事の制裁金の総額は3億1,500万ドル。南アフリカの子会社などは同時に有罪を認めた。合意に添付された事実記述は、会社が真実かつ正確だと同意したものである。

この会社がFCPAで処分を受けるのは初めてではない。DPAは、考慮した事情の1つに前科を挙げる。2004年には米国と英国の子会社がナイジェリアの公務員への贈賄で有罪を認め、2010年には会社自身がメキシコとイラクの公務員への贈賄などでDPAを結んでいた。今回の制裁金は、この前科を理由に、量刑ガイドラインの幅の中間点と上限の中間から25%を減じた額とされた。

2010年の合意には、コンプライアンス・プログラムの最低限の要素を定めた添付書類がある。その1項目で、会社はこう約束していた。会社は、すべての代理人と取引先の起用と監督について、適切なデューデリジェンスとコンプライアンスの要件を設ける。(拙訳) その最初の例として挙げられているのが、代理人と取引先の起用、および適切で定期的な監督についての、きちんと文書化されたリスクベースのデューデリジェンス(拙訳)である。合意の期間は、子会社の有罪答弁から3年とされていた。

舞台は、南アフリカの石炭火力発電所の建設である。事実記述によれば、会社はこの受注をめぐって、高官が「友人」として紹介した人物の会社(下請1)を下請に起用していた。2015年3月10日頃、国営電力会社は発電所の制御・計装の契約を会社に発注すると発表し、翌11日頃、高官を含む幹部の停職を発表した。正式な契約は3月13日頃である。5月、南アフリカの子会社は下請1と下請契約を結び、前払いを行った。その一部は、高官への賄賂に充てるつもりのものだった。高官は2015年7月に復帰した。

ここが今日の分岐点である。2015年10月頃、ドイツの子会社の社員で、事実記述が「マネージャー1」と呼ぶ人物は、別の下請(下請2)と接触するよう指示した。2015年11月から2016年2月にかけて、下請2を承認済みの下請にするため、社内のデューデリジェンスが行われた。結果はこうだった。

下請2は、会社が通常行うデューデリジェンスで、複数の項目について不合格となり、南アフリカと米国にいる会社の人員の間で、下請2の資格と財務の安定性に疑問が生じた。(拙訳)

2016年2月2日頃、「マネージャー3」は南アフリカの子会社のプロジェクト・マネージャーらにメールを送り、下請2を「できるだけ早く」承認済みの下請にするよう指示した。事実記述は続ける。このため、米国にいる会社の調達とコンプライアンス関連の社員が、下請に求める会社の標準の資格要件について、免除の起案をすることになった。(拙訳) 2月15日頃には「マネージャー4」が免除の案にコメントを付け、翌日、それが米国の人員に回された。

資格への懸念にもかかわらず、会社はその後、下請2が仕事に必要な資格を持つ他の下請を通じて作業することを前提に、求められた免除を与えた。(拙訳)

下請2がなぜ必要だったのか。事実記述によれば、マネージャー1と高官は、契約の「変更契約」を使って工事の費用を膨らませることで合意していた。高官の指示で国営電力会社が変更契約を提案し、目標の価格を事前に決めておき、形だけの交渉を経て、その目標価格と同じか、それに近い価格で契約した。そして、変更契約を受注する前提条件として、高官は南アフリカの子会社に下請2を雇うことに同意するよう求めた。(拙訳) 下請2の取締役には、高官の近親者が就いていた。

2016年3月8日頃、国営電力会社は、工事を加速させる変更契約を約2億4,900万ランド(当時で約1,250万ドル)で承認した。同じ3月頃、南アフリカの子会社は下請2に約1,160万ランド(約75万4,000ドル)を払い、帳簿には「実施した作業」の支払いと記録した。その一部は、高官のための賄賂に充てるつもりのものだった。ほかの3件の変更契約は約7億6,900万ランド(約4,400万ドル)に上った。

Q1

事実記述によれば、デューデリジェンスで不合格となった下請2は、その後どう扱われたか。

  1. 承認されず、別の下請が選ばれた

  2. 資格のある他の下請を通じて作業することを前提に、標準の資格要件の免除が与えられた

  3. 追加のデューデリジェンスを受け直し、合格した

  4. 南アフリカの子会社が独自の判断で、承認を経ずに起用した

正解: 2

解説: 2016年2月2日頃、下請2を「できるだけ早く」承認するよう指示が出た。米国の調達とコンプライアンス関連の社員が免除を起案し、会社は資格への懸念にもかかわらず免除を与えた。本便では、デューデリジェンスは働き、不合格という結果も出ていた。その結果を通す道として、免除が使われたと読んだ。

誤答の罠: 4を選びたくなる。現地の子会社が本社の手続を飛ばした、という筋は分かりやすい。この事例で免除を起案したのは、米国にいる調達とコンプライアンス関連の社員だった。

Q2

事実記述によれば、変更契約の受注の前提条件として、高官が南アフリカの子会社に求めたことは何か。

  1. 下請2を雇うことに同意すること

  2. 契約の価格を競合他社より下げること

  3. 現地の雇用を一定数確保すること

  4. 工事の完了を前倒しすること

正解: 1

解説: 高官とマネージャー1は変更契約の目標の価格を事前に決め、形だけの交渉で、それと同じか近い価格の契約にしていた。高官は、受注の前提として下請2の起用を求め、子会社はどの変更契約でも下請2を使った。本便では、下請2の承認は、受注そのものとつながっていたと読んだ。

誤答の罠: 3を選びたくなる。南アフリカでは、国営企業との契約の獲得が、現地の一定の下請を起用することに一部かかっていたことを、会社は認識していた(事実記述)。ただ、変更契約で高官が求めたのは、特定の1社の起用だった。

Q3(判断分岐)

大型案件の受注の直前、顧客の側から名前の挙がった下請が、デューデリジェンスで不合格になった。事業部は、資格のある別の下請を通して作業させるから要件を免除してほしい、と言う。あなたが免除の起案を頼まれたら、どうするのを本便は勧めるか。

  1. 資格のある下請を通すことを条件に、免除を起案する

  2. 免除はせず、なぜこの下請が必要なのか(顧客の側の誰が名前を挙げたか)を書面で出させ、案件の責任者より上の階層で判断してもらう

  3. 免除を起案し、事後に監査で確かめる

  4. 事業部長の承認があれば免除する

正解: 2

解説: この事例で、下請2の起用は高官が受注の前提として求めたものだった。不合格の取引先が必要とされる理由と、その名前が誰から出たかを書面にさせ、案件の利害から離れた階層で判断する、という手順は、DPAの提言でなく、本便の提案である。

誤答の罠: 1は、この事例で実際にとられた判断そのものである。「資格のある他の下請を通す」という条件は、仕事の品質の懸念には答えるが、なぜその会社にお金が流れる必要があるのかには答えていない、というのが本便の見解である。

監修者から一言

この事例を選んだのは、審査は行われ、問題も見つかっていたからです。下請2はデューデリジェンスを受け、不合格になり、南アフリカと米国の両方で疑問が出ていました。それでも、免除という別の道が用意され、そこを通りました。

2010年の合意で、会社はリスクに応じたデューデリジェンスを約束しています。その合意の期間は子会社の有罪答弁から3年と定められていましたし、文書は2つを結び付けていません。本便では、約束していたのと同じ種類の手続が、免除によって通されたと読みました。

私は、取引先の審査の仕組みを見るとき、審査の基準より先に、不合格を覆す手続が誰の判断で、どんな記録とともに使われているかを確かめるべきだと考えています。免除の仕組みそのものは、多くの会社に必要だと私は考えています。ただ、受注を急ぐ案件ほど免除が求められ、その案件ほど、なぜその相手なのかを問う必要があります。

実務接続

今日、自社の取引先審査(デューデリジェンス)で、過去1年に「免除」「例外承認」「条件付き承認」になった案件の件数を、担当部署に聞いて確かめる。0件でなければ、そのうち1件について、免除を求めた部署と、取引先の名前が最初にどこから出たかが記録に残っているかを見る。

出典(段落単位)

  • U.S. Department of Justice「Deferred Prosecution Agreement」United States v. ABB Ltd., Case 1:22-cr-00220-MSN(E.D. Va.、Document 16、2022年12月2日記録)。Attachment A「Statement of Facts」(Document 16-1)を含む。原文PDF(67頁)を取得し、原文で確認した。 https://www.justice.gov/d9/press-releases/attachments/2022/12/06/16_2022.12.02_abb_ltd._dpa_508_compliant_1_0.pdf

  • 同DPA para 4・7: 自主申告の減額なし、捜査協力の評価、モニターを不要とした判断、前科(2010年のDPA、2004年・2001年の子会社の有罪答弁)、SECとの民事制裁金7,500万ドル、刑事の制裁金の総額3億1,500万ドルと25%の減額、量刑ガイドラインの罰金幅。

  • 同 Attachment A 前文: 事実記述が真実かつ正確であることへの会社の同意。para 16〜32: 発電所の制御・計装の契約、下請1、高官の停職と復帰。para 33〜42: 下請2への接触、デューデリジェンスの不合格、2016年2月2日のメールと免除、変更契約の仕組み、下請2への支払いと変更契約の金額。

  • U.S. Department of Justice「Deferred Prosecution Agreement」United States v. ABB Ltd, Case 4:10-cr-00665(S.D. Tex.、2010年9月29日記録)。原文PDF(63頁)を取得し、原文で確認した。 https://www.justice.gov/criminal/fraud/fcpa/cases/abb/09-29-10abbjordan-dpa.pdf

  • 同 para 3: 合意の期間(子会社の有罪答弁から3年)。Attachment C「Corporate Compliance Program」para 10: 代理人と取引先のデューデリジェンスの要件。

  • ※本文中の英語の日本語訳は拙訳である。太字は引用と強調の両方に用いている。

このシリーズ「朝3分の分岐点」は平日毎朝、実際の事件から「判断の型」をひとつお届けします。

PS(いつでも・何度でも): 最近、「このルール何のためだっけ」と思った瞬間はありましたか。
一行で返信いただければ、必ず私が読んで、私が返します。