おはようございます。

今週は「調べる側」を扱ってきました。
最後は、調査を速く終わらせたい会社ほど先に決めておくべき一行の話です。

導入

日弁連ガイドラインには、脚注に置かれた一文がある。本文でなく脚注である。

行為者が積極的に自主申告して第三者委員会の調査に協力した場合の懲戒処分の減免。

これが、再発防止提言の文脈で例示として挙がっている。つまり、調査に協力した人の扱いをどうするかは、調べ終わった後の提言ではなく、調べるための条件として置かれている。

先々週、ドイツの巨大メーカーの話を書いた。

自ら申告した従業員を、一方的な解雇と会社からの損害賠償請求から守る制度を走らせ、100人を超える従業員が情報を出した会社である。あれは海外の当局対応の話だったが、構造は同じだ。

事実を集めたいなら、話した人が損をしない条件を先に置く。

そして、その条件を置けなかった場合にどうなるかも、同じガイドラインが書いている。企業等による十分な協力を得られない場合や妨害行為があった場合、委員会はその状況を調査報告書に記載することができる。

協力しない会社は、そう書かれる。

Q1

ガイドラインが「懲戒処分の減免」を例示している文脈は、次のどれか。

1. 委員の報酬に関する指針

2. 再発防止策の提言に関する指針

3. 公的機関とのコミュニケーションに関する指針

4. 調査報告書の開示に関する指針

正解: 2

解説: 再発防止の提言として例示されている。

判断の型: 処分の設計は、罰の話であると同時に、次に事実が集まるかどうかの話でもある。厳しくするほど抑止が効くという前提は、事実収集の局面では逆に働くことがある。

誤答の罠: 減免と聞くと「不正をした人を甘やかすのか」という反発が必ず出る。ここで分けるべきは、主導した者への責任追及と、周辺で見ていた・巻き込まれた者からの事実収集である。後者を罰で塞ぐと、前者にも辿り着けない。

Q2

ガイドラインが、第三者委員会について「必要に応じて設置することが望ましい」としているものは、次のどれか。

1. 第三者委員会へのホットライン

2. 社外取締役による監督組織

3. 監督官庁への定期報告窓口

4. 株主代表による監視委員会

正解: 1

解説: 第三者委員会へのホットラインを、必要に応じて設置することが望ましいとされている。会社の通報窓口とは別に、委員会へ直接つながる経路を作るという発想である。

判断の型: 調査の期間中だけは、既存の窓口を迂回する道を用意する。

誤答の罠: 既存の内部通報窓口があるから足りる、と考えたくなる。ただし調査の対象が経営や管理部門に及ぶ場合、その窓口自体が調査対象の下にある。先週扱ったのは、まさにそこで止まる話だった。

Q3(判断分岐)

自社で調査委員会を立ち上げる。着手前に決めておくことを一つだけ挙げるとしたら、あなたはどれを選ぶか。

1. 調査の完了期限と、公表の目標日

2. 自主的に申告した者の処分の扱いと、不利益取扱いの禁止

3. 委員への報酬総額の上限

4. 記者会見の実施有無と、想定問答の準備

正解: 2

解説: 1・3・4は、調査が始まってからでも動かせる。2は、始まってから決めると手遅れになる。決まるまでのあいだ、誰も話さないからである。

判断の型: 調査の設計は、「誰が話せるか」から始める。期限を先に切ると、話せる条件が整わないまま時間だけが過ぎる。

誤答の罠: 1を最初に置きたくなるのは自然です。期限は経営が最も気にする項目だからです。ただし、話す人がいなければ期限は守れません。順序の問題であって、期限が要らないという話ではありません。

監修者から一言

今週は、調べ方の話ばかり書きました。

不祥事対応のご相談で最初に聞かれるのは、たいてい「いつまでに終わりますか」と「いくらかかりますか」です。当然だと思います。ただ、その2つを決めるためには、範囲と、話せる条件が先に決まっている必要があります。

外から採点されるのも、そこです。格付けの考慮要素に「調査期間の妥当性」はありますが、「調査が速かったか」はありません。妥当かどうかは、範囲と深さとの釣り合いで見られます。

来週もよろしくお願いします。

実務接続

今日、自社の不正対応手順を開いて、「自主的に申告した人の扱い」の記載があるかを確かめる。無ければ、調査が始まる前に決めておくべき一項目として、次の見直しの議題に載せる。

出典(段落単位)

·        日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(2010年7月15日公表・同年12月17日改訂)脚注13(行為者が積極的に自主申告して第三者委員会の調査に協力した場合の懲戒処分の減免 ── 再発防止策の提言に関する文脈での例示)、第2部 第3の2(企業等による十分な協力を得られない場合や妨害行為があった場合、その状況を調査報告書に記載することができる)、および第三者委員会へのホットラインの設置が望ましいとする定め。 https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2010/100715_2.html

·        第三者委員会報告書格付け委員会「委員会の運営方針」(評価における考慮要素に「調査期間の妥当性」が含まれること)。 http://www.rating-tpcr.net/about/

·        米国司法省 量刑意見書(United States v. Siemens Aktiengesellschaft, Case 1:08-cr-00367-RJL, 2008年12月12日提出)── 上級職を除く従業員が自主申告した場合に一方的な解雇と会社からの損害賠償請求から保護する制度(2007年10月31日〜2008年2月29日実施)、および両制度を通じて100名超が情報提供したこと。※第10便で扱った事案。

今週のまとめ(第15〜19便)

·        月: 調査報告書に成績がつく ── 調べ方は外から採点されている。範囲・深さ・独立性で測られ、費用は見られない

·        火: 顧問弁護士は「利害関係を有する者」に当たる ── 独立性は肩書きでなく、選任の経路と関係の開示で決まる

·        水: 提出前に見せない ── 起案権は委員会に専属する。見ないことを譲歩でなく設計として説明できるか

·        木: 調査報告書、第2報 ── 範囲は組織図でなく「同じことが起こりうる条件」で切る

·        金: 話した人を守る一行 ── 調査の設計は「誰が話せるか」から始める

先週見たのは、情報を運んだ人がどうなるかでした。今週見たのは、その情報を受け取った側が、どう調べるかです。

並べてみると、五日とも同じところに戻ります。調査の質は、調べ始めてからの努力でなく、調べる前に何を決めたかで決まっています。範囲、起案、話せる条件。三つとも、始まってからでは動かせません。

今週の一問の集計

今週もご返信いただき、ありがとうございます。
以下は返信いただいた方のなかでの分布で、母数が小さいことは先にお断りしておきます。

月 調査の対象範囲は誰が決めることになっているか ── 委員会が決める【16】% / 会社側が決めて示す【31】% / 決め方が定まっていない【53】%

火 危機管理規程に、委員から顧問弁護士を外す定めはあるか ── ある【9】% / ない【48】% / 規程自体を見たことがない【43】%

水 調査委員会の設置時に取り交わす文書のひな型はあるか ── ある【12】% / ない【55】% / 分からない【33】%

木 調査手順に「同種の事案が他に無いかを確認する」工程は入っているか ── 入っている【24】% / 入っていない【38】% / 手順自体が定まっていない【38】%

四日とも、「定まっていない」「見たことがない」「分からない」を選んだ方が三割から五割いました。制度が悪いのではなく、平時に決めていないという段階です。

そして、いちばん多かったのは月の「決め方が定まっていない」でした。今週書いてきたことと、そのまま重なります。範囲を誰が決めるかは、危機が起きてから決めるには重すぎる論点だと思います。

今日の一問(返信で教えてください)

あなたの会社の不正対応の手順に、調査の着手前に決めておく事項のチェックリストはありますか?

·        A ある

·        B ない

·        C 分からない

このメールに返信して、A〜Cの一文字だけ送っていただければ十分です。

このシリーズ「朝3分の分岐点」は平日毎朝、実際の事件から「判断の型」をひとつお届けします。来週もよろしくお願いします。

PS(いつでも・何度でも): 最近、「このルール何のためだっけ」と思った瞬間はありましたか。

一行で返信いただければ、必ず私が読んで、私が返します。

このメールには返信できます。感想・異論・「うちの会社ではこうだった」という実例、どれも歓迎です。

水戸貴之/note『コンプライアンスの地図』

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