おはようございます。

昨日は、現場が達成困難と言っても目標が変わらなかった、という国内の報告書でした。今日は同じ構造を、米国の事例で見ます。

今日の報告書には、もう一つ珍しい点があります。
調べたのが、その会社の取締役会自身だという点です。

導入

2017年4月10日、米国の大手銀行の独立取締役が、販売実務に関する調査報告書を公表した。社外の法律事務所を起用し、100件のインタビューと3,500万件を超える文書を調べたものである。

この銀行では、従業員が顧客の同意なく口座を開設していた。報告書は、その根本原因をこう書いている。

販売実務の失敗の根本原因は、コミュニティ・バンクの販売文化と業績管理制度が歪められたことにあり、それが攻撃的な販売管理と結びついて、従業員に対し、顧客が望まない、あるいは必要としない商品を売る圧力を生み、場合によっては無断で口座を開設する圧力を生んだ。(拙訳)

そのうえで、販売目標について、報告書はこう書いている。

多くの場合において、コミュニティ・バンクの経営陣は、自らの計画が達成不能であることを認識していた。それらは一般に「50/50プラン」と呼ばれており、地域の半分しか達成できないであろうという想定を意味していた。(拙訳)

達成できないと知っていた。知ったうえで、そう呼びながら配っていた。

昨日の日本の事例は、現場が達成困難と言っても反映されなかった、という形だった。今日の事例は、配る側が最初から達成不能と分かっていたという形である。

報告書は、組織の作りについても書いている。

分権的な組織構造が、コミュニティ・バンクの上級経営陣に過大な自律性を与えた。彼らは販売モデルを変えることも、それが問題の根本原因であると認めることも、しようとしなかった。(拙訳)

Q1

この報告書が、販売実務の失敗の根本原因として挙げているものはどれか。

1. 一部の従業員の倫理観の欠如

2. 販売文化と業績管理制度の歪みが、攻撃的な販売管理と結びついたこと

3. システム上の権限設定の不備

4. 監督当局の検査頻度の不足

正解: 2

解説: 報告書は root cause として、文化と業績管理制度を挙げている。個人の資質ではなく、制度の側に原因を置いた。

誤答の罠: 1は、当初この銀行が社外に説明していた筋でもある。報告書は、個人の問題として処理しようとした姿勢そのものを問題として扱っている。

Q2

「50/50プラン」という呼び名が意味していたものはどれか。

1. 目標の半分を固定給、半分を歩合とする報酬制度

2. 地域の半分しか達成できないであろうという想定

3. 達成率50%で賞与が支給される制度

4. 経営陣と現場が半々で目標を決める仕組み

正解: 2

解説: 半分の地域は達成できない、という前提つきの目標だった。しかもその呼び名が社内で一般に使われていたと報告書は書いている。

誤答の罠: 3のような制度設計の話に見えるが、これは呼び名である。達成不能を知りながら配っていた事実を、社内の言葉が記録していた。

Q3(判断分岐)

自社の営業目標について、社内で「あの数字は誰も届かない」という言い方が定着している。経営として、最初にやるべきことはどれか。

1. その言い方をやめるよう周知する

2. なぜ届かないと言われているのか、根拠を集めて目標の前提を検証する

3. 達成者の事例を共有して、達成可能だと示す

4. 未達者へのフォロー面談を増やす

正解: 2

解説: 社内で定着した呼び名は、現場の集合的な判断の記録である。50/50という言葉が残っていたから、10年後の報告書がそれを引用できた。呼び名を消すと、記録も消える。

誤答の罠: 1は空気を良くしたい動機から出るが、言い方を変えても数字は変わらない。しかも、後から調べる人が最初に探すのが、この種の社内の言葉である。

監修者から一言

この事案でいちばん引っかかったのは、50/50という呼び名が社内で通っていたという事実です。

誰かが密かに思っていたのではありません。会議で使われ、資料に出て、新しく来た人も覚える言葉になっていた。つまり組織全体が、その目標は半分が届かない設計だと知っていたことになります。

日本の会社でも、似た言葉を聞くことがあります。呼び名は違いますが、機能は同じです。私はそういう言葉を聞いたとき、やめさせるのではなく、なぜその言葉が生まれたのかを聞くようにしています。たいてい、根拠のある話が出てきます。

昨日と今日で、日本と米国の報告書を並べました。どちらも、原因の上位に書かれているのは現場ではなく、目標の配り方でした。

実務接続

今日、自社の営業目標や生産目標について、社内で使われている呼び名やあだ名を思い出して1つ書き出す。その言葉が何を指しているかを説明できるなら、それは現場の判断の記録である。

出典(段落単位)

·         Independent Directors of the Board of Wells Fargo & Company「Sales Practices Investigation Report」(April 10, 2017)── 調査の規模(Shearman & Sterling による100件のインタビューと3,500万件超の文書の調査)、Principal Findings における根本原因の記述(販売文化と業績管理制度の歪み、攻撃的な販売管理、分権的組織構造が上級経営陣に過大な自律性を与えたこと)、および本文p.19の50/50プランに関する記述。報告書本文PDFを取得して原文で確認した。 https://lowellmilkeninstitute.law.ucla.edu/wp-content/uploads/2018/01/WF-Board-Report.pdf

·         ※本文中の英語の日本語訳は拙訳である。

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水戸貴之/note『コンプライアンスの地図』

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