おはようございます。

今週は、調べ終わった後を見てきました。

今日は、その後を外がどう採点するかの話です。先週の格付け委員会は報告書を採点していましたが、今日見るのは、対策そのものの採点です。

導入

米国司法省の刑事局は、企業のコンプライアンス・プログラムを評価するための文書を公表している。2024年9月に改訂された版が最新で、検察官が訴追や処分を判断するときの手引きになっている。

冒頭で、3つの基本的な問いが示される。

1. そのプログラムは適切に設計されているか。

2. 誠実かつ善意で運用されているか。言い換えれば、十分な資源と権限が与えられ、実効的に機能できる状態にあるか。

3. そのプログラムは、実際に機能しているか(Does the corporation's compliance program work in practice?)。

この3つ目の下に、「不正の分析と是正」という節がある。そこにこう書かれている。実効的に機能しているプログラムの証拠は、企業が深い真因分析を行い、その真因に対して適時かつ適切に是正できているかの度合いに現れる、と。

そして、問いのリストが並ぶ。真因分析。何の統制が破れたか。資金はどこを通ったか。取引先の選定過程はどうだったか。そのなかに、真因分析とは別建てで置かれた項目がある。

Prior Indications ── 過去に、この不正を検知できたはずの機会はなかったか。監査報告での統制不備の指摘、申告、苦情、調査といったものである。そして、なぜその機会が見逃されたのかについて、会社はどう分析しているか。

Q1

この文書が掲げる3つの基本的な問いに、含まれないものはどれか。

1. プログラムは適切に設計されているか

2. 十分な資源と権限が与えられ、実効的に機能できる状態にあるか

3. プログラムは実際に機能しているか

4. プログラムの運用費用は同業他社と比べて妥当か

正解: 4

解説: 費用は3つの問いに入っていない。先週、日本の格付け委員会の考慮要素10項目にも費用が無いことを見た。

判断の型: 資源は問われるが、金額では問われない。問われているのは、十分な資源と権限が与えられ、実効的に機能できる状態にあるかである。予算を積んだこと自体は、その答えにならない。

誤答の罠: 4は社内では最も語られやすい指標である。人員も予算も増やしました、と。ただし2つ目の問いは資源の量そのものでなく、権限が与えられ実効的に機能できる状態かを問う。人を増やしても権限が無ければ、この問いには答えられない。

Q2

この文書が Prior Indications として求めている分析は、次のどれか。

1. 過去に不正を検知できたはずの機会があったか、そしてなぜそれが見逃されたのかの分析

2. 過去5年間の役員報酬の推移の分析

3. 不正公表後の株価への影響の分析

4. 記者会見での広報対応の巧拙の分析

正解: 1

解説: 監査報告の指摘、申告、苦情、調査 ── 検知の機会は、たいてい過去にある。問われているのは、その機会がなぜ機能しなかったかである。

判断の型: 原因分析と、見逃しの分析は別の作業である。前者は「なぜ起きたか」、後者は「なぜ止まらなかったか」を扱う。

誤答の罠: 「原因分析はやりました」で済ませたくなる。ただし原因分析だけだと、行為に至った経路しか見ない。統制が並んでいたのにすり抜けたのなら、統制の側にも分析が要る。

Q3(判断分岐)

再発防止策の実効性を、経営会議で説明することになった。最も説得力を持つのはどれか。

1. 対策項目の完了率が100%であること

2. 全社研修の受講率と、理解度テストの平均点

3. 真因分析と見逃しの分析で特定された論点に、どの対策が対応しているかの対応表

4. 同業他社と比べて対策項目数が多いこと

正解: 3

解説: この文書は Remediation の項で、まさにそれを問うている。真因分析と見逃し分析で特定された論点に対して、どの是正が実際に当たったのか(What specific remediation has addressed the issues identified in the root cause and missed opportunity analysis?)。

判断の型: 対策の実効性は、数でも進捗率でもなく、原因との対応関係で示す。

誤答の罠: 1と2は、報告資料として作りやすい。完了率と受講率は、期日までに100%にできる。ただしどちらも、対策が原因に当たっているかについては何も言っていない。数えられるものを数えているだけになっていないか、対応表を作ると一目で分かる。

監修者から一言

私が読んできた範囲での実感を書きます。調査報告書を開くと、いつも探してしまうのに、なかなか見つからない節があります。「なぜ見逃したか」です。

原因分析は、たいていの報告書にあります。ただ、それは行為に至った経路の話であることが多い。一方で、少なくない事案には、途中で気づけた場面が残っています。内部監査の指摘、通報、取引先からの問い合わせ、前任者の引き継ぎメモ。それが止まらなかった理由は、原因分析とは別に書かないと出てきません。

この節を1つ足すだけで、再発防止策の中身が変わります。行為を防ぐ対策から、検知が働く対策へ、重心が移るからです。

実務接続

今日、自社の直近の調査報告書または再発防止策に、「なぜ検知できなかったか」を扱った箇所があるかを確かめる。無ければ、次の見直しで1節足す。過去の監査指摘・通報・苦情のうち、今回の事案に関係しうるものを3件洗い出すところから始められる。

出典(段落単位)

·        米国司法省 刑事局「Evaluation of Corporate Compliance Programs」(2024年9月改訂)Introduction ── 3つの fundamental questions として (1) Is the corporation's compliance program well designed? (2) Is the program being applied earnestly and in good faith? In other words, is the program adequately resourced and empowered to function effectively? (3) Does the corporation's compliance program work in practice? を掲げていること。あわせて、本文書は硬直的な公式(rigid formula)を用いず、企業の規模・業種・地理的範囲・規制環境等を踏まえた個別判断を行うとしていること。 https://www.justice.gov/criminal/criminal-fraud/page/file/937501/dl?inline=

·        同 III.C Analysis and Remediation of Any Underlying Misconduct ── 実効的に機能しているプログラムの証(hallmark)は、企業が思慮深い真因分析(thoughtful root cause analysis)を行い、その真因に対して適時かつ適切に是正できる度合いに現れるとしていること。

·        同 III.C 掲載の設問群 ── Root Cause Analysis(真因分析と、体系的な問題が特定されたか、誰が分析に関与したか)、Prior Weaknesses(何の統制が破れたか、方針・手続の所管部署は責任を問われたか)、Payment Systems、Vendor Management、Prior Indications(監査報告での統制不備の指摘・申告・苦情・調査など、過去に不正を検知できた機会はなかったか。そして、なぜその機会が見逃されたのかについての会社の分析)、Remediation(同種の問題の再発リスクを下げるために具体的に何を変えたか。真因分析と見逃し分析で特定された論点に、どの是正が当たったか)、Accountability(懲戒処分の内容と適時性、監督者の責任、当該類型の不正について過去に懲戒を行った実績、報酬の回収・減額の措置)。

·        同 ── 検察官はプログラムが「paper program」にとどまるか、実際に実装・レビュー・改訂されているかを具体的に検証するとしていること。※第10便で扱った事案の当局用語と同じ枠組み。

今日の一問(返信で教えてください)

あなたの会社の直近の調査・再発防止の文書に、「なぜ検知できなかったか」を扱った箇所はありますか?

·        A ある

·        B ない(原因分析はある)

·        C 分からない

このメールに返信して、A〜Cの一文字だけ送っていただければ十分です。

このシリーズ「朝3分の分岐点」は平日毎朝、実際の事件から「判断の型」をひとつお届けします。

PS(いつでも・何度でも): 最近、「このルール何のためだっけ」と思った瞬間はありましたか。

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水戸貴之/note『コンプライアンスの地図』

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