おはようございます。今週の配信は今日と明日の2日だけです。
シルバーウィークですね。この2日間、お仕事の方もお休みの方も、よき日々となりますように。

さて、その2日で、同じ条文で躓いた2社を1日1社ずつ読みます。

会社法461条、剰余金の配当と自己株式取得の財源規制です。報告書はどちらも今年5月と6月に出たばかり、どちらも東証プライム上場です。そして、どちらにも、故意の不正や隠蔽の認定はありません。

導入

2026年5月29日、技術者派遣を手がけるグループの持株会社が、外部専門家で構成された調査チームの調査結果を公表した。前年11月に実施した中間配当が、会社法上の分配可能額を超えていた事案である。

中間配当は1株90円、総額は約69億4,800万円。法律上配れた上限は、約34億6,900万円だった。

本件中間配当の配当総額は、分配可能額を約 34 億 7,900 万円超過するものとなっていた。

上限の、およそ倍である。

会社法では、分配可能額は原則として最終事業年度の末日(この会社なら3月末)の数字で計算する。期中に稼いだ利益を足すには、臨時計算書類を作り、監査を受け、承認を得るという別の手続が要る(会社法461条2項2号、441条)。この会社は、その手続を経ないまま9月末の数字を使っていた。

理由は、1つの表計算ファイルにあった。本件 Excel ファイルには、中間配当と期末配当で、異なるシートは設けられていなかった。報告書の脚注によれば、このファイルは2009年頃から分配可能額の計算に使われていたと窺われる。

ただし、報告書が挙げた原因はこの1つではない。3つ目に並ぶのは、過去の潤沢な利益剰余金の存在への過信及び当社の純粋持株会社化に伴うリスクの検討不足である。この会社は2023年10月に持株会社へ移行し、事業会社へ利益剰余金の一部を移した。持株会社の収入は子会社からの配当が中心で、受領は例年6月。その6月の利益は、臨時計算書類の手続を経ないかぎり中間配当の枠には足せない。だからこそ中間配当時の分配可能額には慎重な検討が要る、と報告書は書く。移行の際にこのリスクが社内で議論された事実は、確認されなかった。

ヒアリングを受けた役職員は一様に、多額の利益剰余金があるので超過は想定もしていなかったと述べている。実際には、2025年6月に子会社から約133億8,600万円の配当を受領しており、その後に臨時計算書類の手続を経ていれば超過せずに実施できた、とも書かれている。お金はあった、抜けたのは手続のほうである。

そして、ここからが今日の分岐点である。この計算は、隠されていなかった。

取締役会の資料には「中間配当の額の検証について」と題する資料が添付され、その中の分配可能額の計算欄には、「25 年 9 月末実績」の数値が記載されていた。10月28日の取締役会には、監査等委員を含め取締役全員が出席している。報告書は、9月末の数字を使う点について説明を担当した業務執行取締役からの特段の説明は確認されなかったとし、こう続ける。

本件取締役会に出席した各取締役から何らかの指摘がなされた事実も確認されなかった。

同じ日の監査等委員会でも、指摘はない。決議そのものは2日後、取締役全員の書面での同意により、2025年10月30日付けで成立している。

紙は法務関連業務を担当する事業管理部にも回付されていたが、その役割は資料の取りまとめと配付のみで、中間配当に関する配当金及び分配可能額の検討結果を確認してはいなかった。

超過が判明したのは配当の効力発生から5か月余り後、2026年5月6日の通期決算の過程である。会計監査人の指摘が契機になった。

Q1

この中間配当について、報告書が認定した金額の関係はどれか。

1. 配当総額は約34億7,900万円で、分配可能額を約69億円下回っていた

2. 配当総額は約69億4,800万円で、分配可能額を約34億7,900万円超過していた

3. 配当総額と分配可能額はほぼ同額で、超過は軽微だった

4. 分配可能額は算定されておらず、超過額は確定していない

正解: 2

解説: 配れた上限は約34億6,900万円、配ったのは約69億4,800万円。上限のおよそ倍である。分配可能額そのものは算定されていた。算定の基準日が違った。

誤答の罠: 4を選びたくなるが、計算は行われていた。行われたうえで、9月末の数字が入っていた。

Q2

この超過が取締役会で気づかれなかった状況として、報告書の認定に合うものはどれか。

1. 資料に分配可能額の記載がなく、判断材料が無かった

2. 経理部門が意図的に誤った数字を提出し、取締役に説明しなかった

3. 資料には「25年9月末実績」と基準日が明記されていたが、説明も指摘もなかった

4. 会計監査人が事前に確認し、問題なしと回答していた

正解: 3

解説: 基準日は資料に書かれていた。取締役は全員出席していた。それでも、そこが論点になった形跡は確認されていない。読める場所にあったことと、読まれたことは別である。

誤答の罠: 2を選びたくなる。不正の事案ならそうなる。ここでは、法令違反の可能性を理解しながら決議に同意した取締役はいなかったと認定されている。

Q3(判断分岐)

自社の次の取締役会に、剰余金の配当の議案が上がってきた。資料に分配可能額の計算欄がある。最初に見るべきものはどれか。

1. 分配可能額が配当総額を上回っているかどうか

2. その分配可能額が、いつ時点の数字で計算されているか

3. 前期と比べて配当性向が妥当な水準か

4. 連結の利益剰余金に十分な残高があるか

正解: 2

解説: 1は当然見る。ただし、基準日が違えば、その比較自体が成り立たない。中間配当で期中の数字が使われているなら、臨時計算書類の作成・監査・承認を経ているかまで確認する。

誤答の罠: 4は残高の話であって、枠の話ではない。財源規制は配る会社の単体で、しかも効力発生日時点で判定する。グループに潤沢な剰余金があることは、その会社が配れることを意味しない。

監修者から一言

この報告書でいちばん長く止まったのは、「25年9月末実績」という記載が、取締役会の紙に印刷されていたという箇所でした。

隠されていたなら話は単純です。誰かが隠し、誰かが騙された。この事案では基準日は書かれていて、全員がその紙を持っていました。

ここから先は私見です。書いてあるものを人は読む、と私たちはつい考えます。ただ実務では、その欄を自分が見る欄だと思っていない人は、書いてあっても読まないと感じています。

一度組まれた計算式は、毎年そのまま回ります。作った人は替わり、引き継いだ人はその式が正しい前提で使う。引き継ぎは動作を渡しますが、根拠までは渡りません。そして、組織の形が変われば前提のほうが動きます。この会社では、持株会社への移行がそれでした。

自社で長く回っている計算ファイルを1つ思い浮かべてみてください。それを最後に検算したのは、いつで、誰でしたか。

実務接続

今日、直近の配当または自己株式取得の取締役会資料を1枚開き、分配可能額の計算が「いつの数字」から始まっているかを確認する。出発点が最終事業年度の末日(3月決算なら3月末)の単体の数字で、そこから効力発生日までに実施した配当・自己株式取得などを差し引いているか。期中の利益を足しているなら、臨時計算書類の手続を経ているかまで聞く。

出典(段落単位)

·       調査チーム(弁護士 平尾覚、弁護士 内田雅人、公認会計士 河江健史)「調査報告書」(2026年5月28日付)。株式会社メイテックグループホールディングスが2026年5月29日に公表。会社公式サイト掲載のPDFを取得し、原文で確認した。 https://www.meitecgroup-holdings.com/ja/ir/ir_news/auto_20260527551437/pdfFile.pdf

·       同報告書 ── 中間配当の経緯(2025年10月28日の取締役会で事前報告、同月30日に取締役全員の書面での同意により決議があったものとみなされた。1株当たり90円・効力発生日11月28日)、配当総額 約69億4,800万円、本来の分配可能額 約34億6,900万円、超過額 約34億7,900万円、2026年5月6日に会計監査人の指摘を契機として判明したこと、法令への抵触の可能性を理解しながら決議に同意した事実は認められなかったこと。

·       同報告書 ── 本件Excelファイルに中間配当と期末配当で異なるシートが無かったこと、同ファイルに2008年3月末以降の実績が入力され2009年頃から用いられていたと窺われること(脚注6)。取締役会資料「中間配当の額の検証について」の計算欄に「25年9月末実績」の数値が記載されていたこと、説明を担当した業務執行取締役からの特段の説明・出席取締役からの指摘・同日の監査等委員会での指摘のいずれも確認されなかったこと、事業管理部が資料の取りまとめと配付のみを担当し検討結果を確認していなかったこと。

·       同報告書 ── 発生原因3点(理解不足/管理体制の不備/過去の潤沢な利益剰余金の存在への過信及び純粋持株会社化に伴うリスクの検討不足)、2023年10月1日の持株会社移行と事業会社への利益剰余金の移管、持株会社の収入が子会社からの配当中心で受領が例年6月であること、移行時にこのリスクが内部で議論された事実は確認されなかったこと、2025年6月に子会社から約133億8,600万円の配当を受領しており、その後に臨時計算書類の作成・承認等を経ていれば超過せずに実施できたこと。事業内容は「高い専門性を持つエンジニアを、顧客企業に対して派遣従業員として派遣することを内容とする事業」と記載。同社は東京証券取引所プライム市場に上場。

·       会社法(平成十七年法律第八十六号)第461条・第446条・第441条 ── 分配可能額はその行為の効力を生ずる日における額で判定すること(461条1項柱書)。その額は最終事業年度の末日における剰余金の額を基礎とし、期末後に実施した剰余金の配当等を減じて算定すること(446条・461条2項)。最終事業年度後の損益を加味するには臨時計算書類の作成・監査・承認を要すること(461条2項2号・441条)。e-Gov法令APIで条文原文を取得して確認した。

このシリーズ「朝3分の分岐点」は平日毎朝、実際の事件から「判断の型」をひとつお届けします。

PS(いつでも・何度でも): 最近、「このルール何のためだっけ」と思った瞬間はありましたか。

一行で返信いただければ、必ず私が読んで、私が返します。

水戸貴之/note『コンプライアンスの地図』

このレターが役に立ちそうな方がいたら、転送してあげてください。