おはようございます。

月曜・火曜は、目標の配り方を名指しした報告書でした。今日は、処分の記録を名指しした報告書を読みます。

舞台は民間企業ではありません。米国の金融規制当局です。

導入

2024年4月、米連邦預金保険公社(FDIC)の取締役会の特別レビュー委員会に宛てて、外部の法律事務所が報告書を提出した。職場のハラスメントと組織文化に関する調査である。

報告書の冒頭近くに、ある職員の言葉が引かれている。対人的な不正行為への組織の対応は、こうだ、と。

彼らに給与を払い、昇進させ、異動させる。
(拙訳。原文 "pay, promote, or move them.")

そして委員会は、その印象が印象にとどまらないことを、数字で示した。

FDIC自身の公表報告によれば、2015年から2023年までの9年間にハラスメント防止プログラムを通じて行われた92件のハラスメント申立てのうち、免職、等級もしくは給与の引下げ、または停職より重い懲戒に至ったものは、1件もなかった。(拙訳)

内訳も書かれている。

この92件のうち、停職に至ったのは2件、譴責状が2件、カウンセリング・警告・研修が12件であった。残りは、いかなる懲戒にも至らなかった。(拙訳)

ここが今日の分岐点である。この数字は、調査委員会が掘り出したものではない。報告書は、はっきりこう書いている。

上記の表に示したとおり、FDICが議会に報告した公式統計は、FDICのハラスメント防止プログラムを通じて申し立てられ記録されたハラスメント申立てが、年平均およそ10件であったことを示している。(拙訳)

議会に報告されていた。つまり、公表されていた。9年分、誰でも見られる場所に。

Q1

この報告書が示した、2015年から2023年までの9年間の数字はどれか。

1. 92件の申立てのうち、約半数が懲戒処分に至った

2. 92件の申立てのうち、免職・等級や給与の引下げ・停職より重い懲戒に至ったものは1件もなかった

3. 申立ては年間92件で、うち9件が処分に至った

4. 申立て件数は公表されていなかった

正解: 2

解説: 9年間で92件、年平均10件ほど。停職2件、譴責状2件、カウンセリング等12件で、残りは懲戒なし。制度は動いていた。結果が出ていなかった。

誤答の罠: 4を選びたくなるが、逆である。数字は議会に報告され、公表されていた。

Q2

この数字の出どころとして、報告書が書いているものはどれか。

1. 委員会が内部資料を解析して独自に集計した

2. 匿名の内部通報者が持ち出した

3. FDIC自身が議会に報告していた公式統計

4. 報道機関の情報公開請求により開示された

正解: 3

解説: 外部が暴いた数字ではない。自分たちで数えて、自分たちで出していた数字である。誰も、それを見て問題だと言わなかった。

誤答の罠: 1や2のほうが調査報告書らしく見える。ただ、この事案の怖さは、隠されていなかったことのほうにある。

Q3(判断分岐)

自社のハラスメント相談窓口の年次報告を見たら、直近3年で申立て24件、懲戒処分ゼロだった。最初にやるべきことはどれか。

1. 申立てが軽微な案件ばかりだったと説明できるよう整理する

2. 24件それぞれについて、調査の結論と、処分に至らなかった理由を1行ずつ並べる

3. 通報件数を増やすための周知を強化する

4. 相談窓口を外部委託に切り替える

正解: 2

解説: ゼロという数字それ自体は、悪いとも良いとも言えません。効くのは、ゼロの内訳である。24行並べたとき、説明できない行がいくつ残るか。そこが実態になる。

誤答の罠: 1は、説明の準備から入ってしまう。並べる前に結論を決めると、並べる意味が消える。

監修者から一言

この事案を初めて読んだとき、私が驚いたのは中身ではなく、その数字がずっと公表されていたことでした。

日本の会社でも、ハラスメント相談の件数と処分件数を並べた資料を拝見することがあります。件数は載っていて、処分の欄が空欄か、ごく少ない。そして、その資料が毎年そのまま更新されていく。

数字を出していることと、数字を見ていることは別だと思っています。出す作業は担当部門で完結しますが、見る作業は、見た人が何かをしなければならなくなるので、止まりやすい。

もし自社の資料で処分がゼロなら、それを隠す必要はありません。ゼロの理由を24行書けるかを確かめるほうが、ずっと早いはずです。

実務接続

今日、ハラスメント相談の年次集計に、「処分に至らなかった理由」の列を1つ足す。過去分を埋める必要はない。次の1件から書き始めれば、3年後には並べられる。

出典(段落単位)

·         Cleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP「Report for the Special Review Committee of the Board of Directors of the Federal Deposit Insurance Corporation」(April 2024)── 職員の証言("pay, promote, or move them.")、2015年から2023年までの9年間の92件のハラスメント申立てについて免職・等級もしくは給与の引下げ・停職より重い懲戒に至ったものが1件もなかったこと、その内訳(停職2件・譴責状2件・カウンセリング等12件・残りは懲戒なし)、およびこれらがFDIC自身が議会に報告した公式統計に基づくこと。報告書本文PDFを取得して原文で確認した。 https://www.fdic.gov/sites/default/files/2024-05/cleary-report-to-fdic-src.pdf

·         ※本文中の英語の日本語訳は拙訳である。

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水戸貴之/note『コンプライアンスの地図』

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