おはようございます。昨日、2016年に国土交通省が業界各社へ「同様の不正はないか」と照会した、と書きました。今日は、その照会を受けた側の話です。
導入
2022年8月2日、ある大手商用車メーカーの特別調査委員会が調査報告書を公表した。委員長は弁護士。調査期間は同年3月11日から7月31日、委員会は33回開かれ、ヒアリングは101名にのべ243回、従業員アンケートは2,084通(回答率約22.6%)が返ってきている。
委員会が認定した不正行為は、大きく3点だった。排出ガスに関するもの。燃費に関するもの。そして3点目が、これである。
2016年5月、国土交通省から道路運送車両法に基づき、認証取得時の排出ガス・燃費試験における不適切な事案の有無について報告を求められた際、不適切な事案はなかった旨の虚偽の回答を行ったこと。
報告書はこれを「2016年問題」と呼んでいる。
昨日見たとおり、この照会は、三菱自動車の燃費不正を受けて業界全体へ広げられたものだった。再発防止の第一歩である横展開の照会に、事実でない回答が返っていた。そして6年後、その回答自体が、不正行為として認定された。
Q1
この特別調査委員会が「不正行為」として認定した3点に、含まれるものはどれか。
1. 監督官庁からの照会に対し、不適切な事案はなかった旨の虚偽の回答を行ったこと
2. リコールの届出を意図的に遅らせたこと
3. 有価証券報告書に虚偽の記載をしたこと
4. 下請代金を不当に減額したこと
正解: 1
解説: 認定されたのは、排出ガスに関する不正、燃費に関する不正、そして2016年の照会への虚偽回答の3点である。
判断の型: 不正そのものと、不正を隠した回答は、別々に認定される。後者は、調査の途中で見つかると、前者よりも心証を悪くすることが多い。
誤答の罠: 2〜4はいずれも実務でよく見る類型だが、この事案の争点ではない。事案ごとに、何が認定対象になるかは違う。ここで見るべきは、照会への回答が独立した認定対象になりうるという点である。
Q2
同じ報告書が挙げた「本問題の真因」3つに、含まれないものはどれか。
1. みんなでクルマをつくっていないこと
2. 世の中の変化に取り残されていること
3. 業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたこと
4. 内部通報窓口が社外に置かれていなかったこと
正解: 4
解説: 真因は1〜3の3つである。制度の有無ではなく、つくり方・向き合い方・マネジメントの3つで書かれている。真因②からは、上意下達の気風が強すぎ、「上に物を言えない」、「できないことをできないと言えない」という風通しの悪い組織となっているという現象が挙げられた。
判断の型: 真因が「言えない」で書かれたとき、対策を「言う窓口を作る」で終えると届かない。言えない理由のほうを変えないと、窓口は空のまま置かれる。
誤答の罠: 4のような制度の不備は、対策に落としやすい。落としやすいから選ばれやすい。ただしこの委員会は、過去の成功体験を引きずり、「できない」ことや過去の過ちを認めることができないとも書いている。ここに窓口を1つ足しても、認められないものは認められない。
Q3(判断分岐)
自社が、監督官庁または業界団体から「同種の不正がないか報告せよ」と照会を受けた。回答をまとめる立場になったとして、あなたが最初にやるべきことはどれか。
1. 各部門長に「無い」ことの確認を依頼し、回答を集約する
2. 「無い」と答える根拠 ── どの範囲を、どの方法で調べたのか ── を先に定義する
3. 過去の内部監査報告に該当する指摘がないことを確認する
4. 回答文言について法務部門のリーガルチェックを受ける
正解: 2
解説: 照会への回答は、後から調べた範囲と方法で評価される。無い、は結論であって、調べ方の説明ではない。範囲と方法を先に決めておけば、仮に後から出てきても「その範囲では見えなかった」と説明できる。決めていなければ、その説明ができない。
判断の型: 「ありません」は、どう調べたかとセットでないと、後から根拠を示せなくなる。
なお、虚偽と評価されるかどうかは、認識や調査の実態を含めて判断される事柄である。ここで扱っているのはその手前で、説明の材料が手元に残るかどうかという話にとどまる。
誤答の罠: 1は最も自然な進め方で、実際ほとんどの会社がこうする。ただし各部門長の側も「無い」としか答えようがないことがある。上に物を言えない組織では、この経路は構造的に「無い」を返す。集約の仕組みは、答えの質を保証しない。
監修者から一言
こうした照会への回答づくりに立ち会うことがあります。共通しているのは、期限が短いことです。
短い期限で「無いこと」を確かめるのは、「あること」を確かめるよりずっと難しい作業です。だから私は、回答本文より先に、調べる範囲と方法を1枚に書いておくことをお勧めしています。書いておけば、期限内にできる範囲もはっきりします。範囲を限定して答えること自体は、まったく後ろ暗いことではありません。
危ういのは、範囲を書かずに結論だけ書くほうです。あとから範囲の話ができなくなります。
実務接続
今日、直近で外部から受けた「同種事案の有無」に関する照会の回答控えを開いて、調べた範囲と方法が書かれているかを確かめる。書かれていなければ、次回の照会用に1枚のひな型を作っておく。
出典(段落単位)
· 日野自動車株式会社 特別調査委員会「調査報告書の概要」(2022年(令和4年)8月2日。委員長 榊原一夫、委員 島本誠・沖田美恵子)── 調査期間2022年3月11日〜7月31日、委員会開催33回、ヒアリング合計101名・のべ243回、従業員アンケート2,084通(回答率約22.6%)。 https://www.hino.co.jp/corp/news/assets/abe07682244a44df7fd3132ea18598fe.pdf
· 同概要 2(1)概要 ── 当委員会が認定した不正行為は①排出ガスに関する不正行為 ②燃費に関する不正行為 ③2016年(平成28年)5月、国交省から、道路運送車両法に基づき、認証取得時の排出ガス・燃費試験における不適切な事案の有無について報告を求められた際、不適切な事案はなかった旨の虚偽の回答を行ったこと(「2016年問題」)の3点であること。
· 同概要 ── 本問題の真因を①みんなでクルマをつくっていないこと ②世の中の変化に取り残されていること ③業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたこと、の3つとしたこと。真因②から生じた現象として、上意下達の気風が強すぎ「上に物を言えない」「できないことをできないと言えない」という風通しの悪い組織となっていること、過去の成功体験を引きずり「できない」ことや過去の過ちを認めることができないこと、開発プロセスに対するチェック機能が不十分であることが挙げられていること。
· 同概要 ── 委員会の提言として、目指すべきクルマづくりのあり方について議論を尽くすこと、品質保証部門の役割の明確化と機能強化、法規やルールの改正動向の把握と社内展開、開発におけるQMSを適切に構築し、その有効性を絶えずチェックし、必要であれば改善することが挙げられていること。
· 国土交通省「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会 とりまとめ」(令和6年12月24日)第2章2(1)③ ── 令和4年8月に同社の燃費試験・排出ガス長距離耐久試験の不正が明らかとなり、全ての現行エンジン14機種で不正行為が確認されたこと。 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001853861.pdf
今日の一問(返信で教えてください)
外部からの「同種事案の有無」の照会に、あなたの会社は調べる範囲と方法を決めてから答えていますか?
· A 決めてから答えている
· B 結論を集約して答えている
· C そもそも照会を受けたことがない・分からない
このメールに返信して、A〜Cの一文字だけ送っていただければ十分です。
このシリーズ「朝3分の分岐点」は平日毎朝、実際の事件から「判断の型」をひとつお届けします。
PS(いつでも・何度でも): 最近、「このルール何のためだっけ」と思った瞬間はありましたか。
一行で返信いただければ、必ず私が読んで、私が返します。
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水戸貴之/note『コンプライアンスの地図』
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