おはようございます。昨日は、スイスの重電大手の南アフリカ子会社で、デューデリジェンスに落ちた下請が、資格要件の免除で承認されていた事案でした。
今週最後の今日は、刑事事件の合意そのものです。会社は合意で捜査への協力と開示を約束し、監視役も受け入れていました。その合意の履行の中で起きたことを、司法省の文書で読みます。
導入
2019年12月6日、スウェーデンの大手通信機器メーカーは、米国司法省(DOJ)と起訴猶予合意(DPA)を結んだ。ジブチでの贈賄と、中国、ベトナム、インドネシア、クウェートでの帳簿・内部統制の違反について、海外腐敗行為防止法(FCPA)違反の罪を問われたものである。会社は約5億2,065万ドルの制裁金を払い、独立のコンプライアンス・モニター(監視役)を受け入れた。
合意には、協力と開示の義務があった。会社は、自社や子会社、役職員について、社内外の調査を含めて知っている事実をすべて真実のとおりに開示すると約束した。もう1つの条項はこうである。
合意の期間中に、会社が、米国の管轄内で起きていればFCPAの贈賄禁止規定または会計規定への違反を構成しうる行為の証拠や申立てを知った場合には、会社は速やかにその証拠や申立てを司法省に報告する。(拙訳)
2023年3月2日、会社は有罪答弁の合意を結んだ。司法省が、会社はDPAの協力と開示の義務に違反したと判断し、違反を宣言したためである。違反の事実は司法省が判断して記したもので、有罪答弁の合意に組み込まれている(会社が真実と認めたのは、起訴の内容と元の事実記述である)。司法省が挙げた事実は、どれも開示の遅れや欠落だった。
ジブチの件では、贈賄を主導した幹部2人の2011年5月のメールを、2021年5月まで出さなかった。外国の当局にそのメールを渡した1か月後である。中国の件では、2018年2月、北東アジア市場を担当する管理職が、中国の不正の中心にいた元幹部らについて申し立てるメールを会社の上級幹部に送っていた。司法省の文書はこう書く。
2018年2月のメールを受け取った経営陣は、それが米国の捜査にとって重要だと認識し、直ちに当時の社外の弁護士に申立ての調査を依頼した。(拙訳)
それでも、このメールが司法省に渡ったのは2021年4月だった。本社の地下の金庫や施錠したキャビネットにあった第三者との契約書や請求書、デューデリジェンスの書類、そしてUSBメモリ2本についても、文書は書く。会社は2021年4月までこれらの資料を米国に提出しなかった。一部の社員は、早ければ2015年にはその存在を知っていた。(拙訳)
ここが今日の分岐点である。DPAを結ぶ直前、別の国で、新しい社内調査が進んでいた。
DPAを結ぶ2週間前の2019年11月22日、経営陣の指示で、会社が当時起用していた社外の弁護士は、イラクでの会社の事業について進めていた新しい社内調査に関し、大まかな情報を米国に開示した。(拙訳)
文書によれば、この開示は電話で行われた。そして、当時の社外の弁護士による開示は、その時点までに会社と弁護士が知っていた調査結果の重要な詳細を省いていた。(拙訳)
12月6日、会社はDPAを結んだ。その5日後、調査の報告書が確定した。
会社は2019年12月11日、DPAを結んだ5日後に、イラクの調査報告書を確定させた。当時の社外の弁護士は、DPAの条項で求められていたにもかかわらず、調査の結果と結論について米国に更新を伝えなかった。(拙訳)
2年あまり後の2022年2月、司法省と会社の両方に、調査報道の記者たちの国際的な連合から、会社のイラクでの事業について照会が届いた。会社は司法省に連絡を取り、2019年の開示を見直し、新しい社外の弁護士を通じて、改めて開示した。そこには、2019年の開示に含まれていなかった、FCPA違反の可能性を示す情報や証拠が入っていた。文書はこう締めくくる。イラクの調査の全容は、会社が2022年に報道の可能性を知った後まで、米国に開示されなかった。(拙訳)
司法省は2021年10月21日に最初の違反の通知を出していた。2023年の有罪答弁の合意で、会社は2つの罪について有罪を認めた。罰金は全体で約7億2,738万ドルとされ、DPAで払った約5億2,065万ドルを差し引いて、約2億673万ドルを追加で払う。モニターは、この合意の期間の終わりまで延長された。
Q1
司法省の文書によれば、2018年2月に申立てのメールを受け取った会社の経営陣は、何をしたか。
メールを無視し、記録も残さなかった
メールの重要性を認識し、直ちに当時の社外の弁護士に調査を依頼した
直ちにメールを司法省に提出した
メールを送った社員を処分した
正解: 2
解説: 経営陣はメールの重要性を認識し、すぐに社外の弁護士に調査を頼んだ。それでも、メールは3年以上司法省に渡らず、2021年4月に提出された。本便では、社内で重く受け止めることと、約束した相手に届けることが、別の手順になっていたと読んだ。
誤答の罠: 1を選びたくなる。開示が遅れたのは、誰も重要だと思わなかったからだ、と考えやすい。文書が書くのは逆で、経営陣は重要性を認識していた。
Q2
司法省の文書によれば、イラクの社内調査の全容が米国に開示されたのは、何の後だったか。
モニターが調査報告書を見つけた後
2022年2月に調査報道の記者たちの連合から照会が届き、会社が報道の可能性を知った後
会社の取締役会が新しい開示の方針を決めた後
司法省が2021年10月に最初の違反の通知を出した直後
正解: 2
解説: 照会は司法省と会社の両方に届き、会社は2019年の開示を見直して、新しい社外の弁護士を通じて改めて開示した。文書に記された開示の見直しは、2022年の記者の連合からの照会の後だった。本便では、2019年の電話の中身が、照会が来るまで改めて確かめられないまま残っていたと読んだ。
誤答の罠: 4を選びたくなる。違反の通知を受ければ、会社は持っている情報を総ざらいするはずだからである。ただ、文書が書く見直しのきっかけは、2022年2月の記者の連合からの照会だった。
Q3(判断分岐)
以下は、この事例を参考にした仮想の場面である。当局との合意の締結を2週間後に控え、別の国で新しい社内調査が進んでいる。途中の段階で分かっていることがある。社外の弁護士は、電話で概要を伝えておけば足りると言う。最初にやることとして本便が勧めるのはどれか。
電話で概要を伝え、合意を予定どおり結ぶ
合意の締結を優先し、調査が終わってから伝える
分かっている事実を書面で伝え、調査報告書が確定したら更新を送ると日付つきで約束し、その更新を誰が送るかを社内で1人に決める
合意の対象に含まれない国の話なので伝えない
正解: 3
解説: この事例では、経営陣は開示を指示していたが、電話での開示は重要な詳細を省き、報告書が確定した後の更新も送られなかった。DPAは、FCPA違反になりうる証拠や申立てを速やかに報告するよう求めていた。書面で伝え、更新の日付と送る人を決める、という手順は、有罪答弁の合意やDPAの提言でなく、本便の提案である。
誤答の罠: 1は、この事例で実際にとられた形に近い。開示を指示したことと、相手に必要な事実が届いたことは別で、それを確かめるには、何を伝えたかが記録に残っている必要がある、というのが本便の見解である。
監修者から一言
今週の最後にこの事例を選んだのは、合意の上では、直す仕組みがそろっていたからです。制裁金を払い、監視役を受け入れ、協力と開示を約束していました。それでも、開示は社外の弁護士が電話で伝えた中身で決まり、報告書が確定した後の更新は送られませんでした。
私が重く読んだのは、経営陣が開示を指示していた点です。指示はありました。それでも、届いた中身は重要な詳細を欠いていました。指示することと、届いた中身を確かめることは、別の仕事だと私は考えています。2018年のメールも、経営陣は重要だと分かっていて、調査を頼んでいます。重く受け止めることと、約束した相手に渡すことの間に、もう1つ手順が要ります。
約束の履行を確かめるとき、私は、指示したかどうかより先に、相手に何が、いつ、どの形で届いたかを記録で確かめるべきだと考えています。
実務接続
今日、自社が当局、監査人、取引先に対して負っている報告の約束を1つ選び、直近の報告で相手に何を渡したかが、日付と形(書面、メール、口頭)とともに記録に残っているかを確かめる。口頭だけなら、その報告で伝えた事実を1枚にまとめて残す。
今週のまとめ(第56〜60便)
今週は「直したはずだった」をテーマに、報告書や当局の文書を5本読みました。国内2本、海外3本です。
月曜、アルミニウムの国内大手グループ。2017年、期限2週間の品質総点検は44件を見つけ、会社は各社に是正を求めた。一方で、121件は総点検で見つからなかった。子会社からの報告は親会社に上がる途中で削られ、取締役会の資料からも一部が外されていた。
火曜、英国の新興銀行。当局の求めに応じて申し出た、高リスクの顧客に口座を開かないという要件を、システムを変えるエンジニアのチームは知らされていなかった。要件を守れているかを確かめる正式な監視の仕組みもなかった。
水曜、保険代理店を営む国内の上場会社の広告子会社。会計監査人の指摘は、取引先への照会で収まった。その照会の回答には、上場会社の専務から回答例が届いていた。
木曜、スイスの重電大手の南アフリカ子会社。デューデリジェンスに落ちた下請が、資格要件の免除で承認された。下請の起用は、高官が受注の前提として求めたものだった。
金曜、今日取り上げた、スウェーデンの大手通信機器メーカー。起訴猶予の合意の2週間前、新しい社内調査は電話で大まかに伝えられ、報告書が確定した後も更新は送られなかった。
5本とも、直すための手続や約束は、形としてありました。総点検、当局への要件、監査人の指摘、デューデリジェンス、合意での開示です。崩れていたのは、その手続が実際の判断や作業の場面に届くところでした。総点検の報告は上がる途中で削られ、要件はシステムを変える人に伝わらず、監査人の照会には回答例が届き、不合格の判定は免除で通され、開示は電話の大まかな情報にとどまりました。本便の読みでは、「直した」と言えるかどうかは、手続があるかでなく、手続が確かめた中身が誰の手を通って届いたかで決まっていました。
今日の一問(返信で教えてください)
あなたの会社で、直近の是正や再発防止策を「済んだ」と判断した根拠は、どれに近いですか。
A 是正を担当した部署からの完了報告
B 別の部署や内部監査が、記録や現物で確かめた結果
C 外部(監査人、当局、顧客)の確認
D 分からない・思い当たらない
このメールに返信して、A〜Dの一文字だけ送っていただければ十分です。
出典(段落単位)
U.S. Department of Justice「Attachment A-1 Factual Basis for Breach」United States v. Telefonaktiebolaget LM Ericsson, 19 Cr. 884(LTS)(S.D.N.Y.、Document 33-2、2023年3月20日記録)。2023年3月2日付の有罪答弁合意に組み込まれた、司法省による違反の事実の記載。原文PDF(8頁)を取得し、原文で確認した。 https://www.justice.gov/media/1283646/dl?inline
同 A-1-1〜A-1-3頁: 2019年のDPA、起訴状、罰金、協力と開示の義務(DPA para 5・6の引用)、司法省による違反の判断。A-1-3〜A-1-7頁: ジブチの2011年5月のメール、中国の2018年2月のメール、本社の書類とUSBメモリの提出の遅れ。A-1-7〜A-1-8頁: イラクの社内調査の2019年の開示、報告書の確定、2022年の照会と改めての開示。
U.S. Department of Justice「Plea Agreement」United States v. Telefonaktiebolaget LM Ericsson(Document 33-1、2023年3月2日付、3月20日記録)。原文PDF(26頁)を取得し、原文で確認した。 https://www.justice.gov/media/1283586/dl?inline
同 para 1・2・7・16: 合意の期間(2024年6月2日まで)、2つの罪の有罪答弁、違反の判断と考慮事情、モニターの延長、全体の罰金と既払い分の控除、会社が真実と認めた事実の範囲。p10: 2021年10月21日の最初の違反の通知。
第56〜59便の出典は各便を参照。
※本文中の英語の日本語訳は拙訳である。太字は引用と強調の両方に用いている。
このシリーズ「朝3分の分岐点」は平日毎朝、実際の事件から「判断の型」をひとつお届けします。来週もよろしくお願いします。
PS(いつでも・何度でも): 最近、「このルール何のためだっけ」と思った瞬間はありましたか。
一行で返信いただければ、必ず私が読んで、私が返します。